無菌的自然醗酵

 

無菌的自然発酵(無菌発酵)

 自然発酵の定義は確立されていませんが、古来より植物や果実に付着する酵母などの微生物、根粒菌の変異株である共生菌、空中や雰囲気中に漂う落下菌を利用し野菜を漬け物にしたり、大豆、麦などの穀類を発酵させて味噌や醤油、酒などを醸造する発酵方法です。    

 一方、無菌的自然発酵(無菌発酵)とは、公知の自然発酵にはない概念ですが、生体(動植物や魚類)の死によって、細胞にある種々の酵素は死後、数時間から数日間を経過してその役割を変換させると考えられます。

 生体内の酵素反応は、生存のために必須の代謝作用から、消化酵素的作用へ役割を変換させ、先ずは細胞を分解し、次に細胞から組織へ、さらに動物の場合は臓器へと順々に自己崩壊していく経過をたどるものと考えられます。この作用は本質的に、無菌的に行なわれる発酵現象です。

 紅茶の製造過程の発酵処理にみられる自然発酵も無菌的発酵を主体とした発酵方法だと考えられます。その酵素作用(機能性)の結果として、お馴染みのレモンティーは、スリランカでは下痢止めの生薬として常用されています。

 生命を維持継続するために、代謝的役割が死に到る状態変化の過程で、生体を触媒する酵素は種々の加水分解酵素に変化し、その作用を個体の自己融解、自己消化へと効率的に誘導するのです。

 そして、細菌や微生物による自然発酵、更には生命の構成要素を産生する消化現象として永劫され、自然に還しては再生循環する自然現象として生命現象を顕在化させるのです。仏教で言う『輪廻転生』は、自然の偉大な仕組みを哲学的、科学的に表現したものだと考えられます。哲人ニーチェもその影響を受け『永劫回帰』と表現しています。

 無菌的自然発酵の状態変化の一つは発熱反応として現れます。植物や野菜の種類により異なりますが、例えば採取された八重桜の葉は数時間で発熱し、約54℃まで昇温します。

 動物である人間も、死後1時間して死後硬直がはじまり、全身が弛緩するまでの約8時間の間に、発熱現象として36~38度の体温上昇が顕著に見られ、次第に室温にまで低下します。この現象は発酵とは言いませんが無菌的に惹起される一つの自然現象であります。

 例えば、魚類のイカやマグロ、動物の肉なども捕りたてよりも2~3日経過させて『寝かせ』たものが美味しいとされる理由は、タンパク質である組織が、細胞内酵素により分解されてアミノ酸が生成したことで旨味が増したものと考えられます。

            自然科学研究所 株式会社ライラック研究所

                    研究所長 平岩 節(たかし)

キノコの霊芝 見つけた『初夏編』

 私は鳩山町の住人ではありませんが、鳩山町が大好きです。鳩山町(埼玉県)は比企丘陵の中心に位置し、自然がいっぱいで、子供や老人に優しい明るい町です。中心部にある『農村公園』は町のシンボル的存在で、周辺には小規模菜園が大きく広がり、全長4~20km程の自然散策道、山あり、河あり、安全遊歩道があり、自然を観察するのに格好な場所です。

 またJAXAの地球観測センターをはじめ、県立の歴史平和資料館、さらに気象庁の気象静止衛星受信、誘導施設があり、直系20mの大パラボラアンテナを真近に見上げるのも実に壮観です。 

 健胃、健腸作用があり、古来から健康に良いといわれているサルの腰掛け科の茸、“霊芝”をご存知ですか。芝は中国語で茸を意味し、主に梅の古木に自生し10万本に1、2本しか生えてこないといわれています。

『日本書紀』皇極天皇3(644年)に菟田郡(うだのこうり)の押坂直(おしさかのあたい)というも者が菟田山で雪の上に生えていた紫菌(紫色の霊芝)を人に見せると誰も名を知らず、煮て食べたところ旨く、以後は病気知らずであったと記されています。

里山、埼玉県鳩山町周辺で実際に探してみますと、100ヘクタール(10キロ四方)の山野に1~2本しか見つけることができませんでした。

観察しますと、ある条件でしか生えてこないことが見えてきます。元気な樹木には絶対に生えてきません。枯れ朽ちた古木にも生えてきません。

この茸が生えるには、“奇跡的条件”を必要とするのでしょうか。

霊芝が生える条件は、1)根の部分に限定され、根が地上すれすれに出ている個所。2)古木が枝打ちされたりし、他の要因で枝の一部が大きく傷付き、その傷口が比較的新しいものでした。霊芝を見つけた古木は檜(ひのき)、欅(けやき)、椚(くぬぎ)の木でした。

根の樹皮の劣化部は、皮膜物質のスポロポレニンやポリフェノールなどの殺菌性の樹液が低下し、雨に濡れてバイ菌に犯され、病気になったことが一つの要因でした。

周辺の環境を見渡すと、いくつかの共通点に気がつきます。人の立ち入らない場所ではなく、神社の境内、適度に日当りの良い、風の穏やかな居心地の良い林や森で、季節はいずれも初夏の雨上がりの翌日でした。

“自然の神”は、古木自身では修復不能な患部を担子菌のサビ菌や黒穂菌(植物腐敗菌)から守るため、自然界に数少ない同じ仲間の“霊芝”

を傷んだ根の一部に共棲させたのです。霊芝は“繊維素分解酵素”を働かせ、古木の弱った組織を自ら一体化させて、根の一部に替わってその役割を担ったのです。

山野を徘徊する途中、漆色の光沢を放つ立ち姿を偶然に見つけた時、人々は誰も、山の“精霊”が降りてきて茸を宿したと思えるほど感銘を受け、その茸を“霊芝”と名づけた所以(ゆえん)ではないでしょうか。

お互いに依存し助けあい、共に生命を維持する自然の知恵、『酵素の相互依存作用』を獲得したのです。

                                                           終わり

【参考】 霊芝は中国名で、和名は万年茸、学術名はサルノコシカケ、用途は主に床飾り。中国の薬草書、李時珍の『本草綱目』1596年刊に記載され、皇帝薬の上薬に位置し、今日まで健胃健腸薬として珍重されてきました。

         株式会社ライラック研究所

         研究所長 工学博士/科学エッセイスト 平岩節